魔王さま一行が巻き込まれることになった新宿地下街の崩落事故の原因は、強大な魔力の放出によるものだった。魔王と勇者を探知するためのソナーの暴走か、あるいは直接攻撃を仕掛けたものか、いずれにせよ二人を共に敵と見なす何者かの存在に疑う余地は無くなった。
”奇跡的に”死者や重傷者が一人も出なかったこの事故の裏側には、自らの魔力を用いて災害に遭った人々を守り助けてまわっていた魔王の力があった。勇者はその姿を目の当たりにして戸惑う。

こんなの魔王じゃ無い

恨み憎み、女の子としての楽しみも捨てて、彼を倒すためだけに青春のすべてを剣に注ぎ込んできた自分はなんだったのか。自分の存在意義を自分で疑いはじめた彼女は、溢れてくる涙を止めることができなかった。


なぜ、元の魔王の姿に戻れるほどの魔力が回復したにもかかわらず、勇者の自分を殺そうとしなかったか。あまつさえその貴重な魔力を消費して身近な存在となっていた千穂のみならず、見も知らぬ大勢の魔王にとってはゴミに等しいはずの人間たちを救ったのか?
勇者エミリアの問いかけに、魔王はまるで今日の昼食の話をするかのような軽い調子で応える。
エンテ・イスラで魔王をやっていたころは人間のことをよく知らなかったから
勇者にはとうてい納得のできない返事だ。そんなことで、殺したり助けたりするのか? ならばどうしてわたしの父は死んだのだ。お前の放った軍団に殺されたのだ。
ごめん
ひたすら軽い魔王の言葉。あるいはその裏に余人にはわからない重みがこもっているのかもしれないけれど、それを斟酌する余裕はいまの勇者にはありはしない……。


が。


突如発生する修羅場が場を和ませた!


真奥の前で泣きじゃくる恵美の姿を見て、やはり二人は『そういう関係』だったのかと早合点するちーちゃんかわいい。彼女もまた涙をこらえられず二人の前から駈けだしていずこかへと逃げ去っていったちーちゃん乙女かわいい


そんなこんなで、いよいよ話が動き出したかな。


なにやらエンテ・イスラの話に通じているような大家さんの正体は?
魔王たちを狙っていたのは、かつての魔王の部下四天王の一人ルシフェルだと判明。
また新たな勇者の仲間たちもこのニホンへと向かっている!
そして、かわいいちーちゃんの恋の行方はいったいどうなるのか。


気になる展開です。



△▼△


衣食足りて礼節を知る』ということわざがあります。
人間が”人間らしい”礼節をわきまえられるようになるには、生活に余裕が必要だという意味です。これは逆から言えば生活に余裕が生まれれば自然と振る舞いは紳士的になる、ということでもあります。

恵美の友人の梨香が神戸の震災で味わったという地獄も、人間世界にきて魔王が落ち着いた理由の一つも、突き詰めればそこにあるのだと思いますがどうでしょう。


ともあれ、肉親の恨みはひたすら根深くそうそう容易に水に流せるものではありません。命を奪われたとあってはなおさらです。そんな根源的な想いと、目の前で別人のように優しく生まれ変わった仇敵を許したい気持ちと、それらをどう折り合いをつけてつきあっていくことになるのか。勇者エミリアの今後を楽しみにしていましょう。

……ただ、わたしの経験上、けっこうラノベってそういう部分をいい加減にしちゃうんだよなぁ*1
そんな重いのは求められていないのかもしれないけれどもね。


ま、おとなしくお話が進むのを見守りましょう。

*1:魔王さまの原作本は読んでいないので知りません