記憶が、魂が変わっても、その器たる“肉体”が同じものならば同じ子だと、そう言った人がいた。
本当にそうだろうか。
わたしにはどうしてもそうは思えない。
その人も、本気でそう言っているとは思えない。
魂が無理ならばせめて現し身だけでもそばにいて欲しい。
そんな弱くわがままな思いからの選択なのだろう。
……と、わたしが思い込みたいだけなのかもしれない。
ツカサははじめてOSの入れ替え……見た目はそのままで記憶と人格が移し替えられたギフティアの〈アンディ〉に出会うことになった。
エルが高校生の頃に近所に住んでいた一般家庭向けのギフティアだった彼女は、心の寿命により回収された後に現在まで、第三ターミナルサービスのマークスマンとして働いている。
それを知らずに昔の名前の〈オリビア〉と呼びかけて否定をされてしまったエルは大きなショックを受けることになるのだが、さすがに新米とはいえギフティアのメンテナスマンを勤める彼女のこと、状況を正しく理解して、一定の折り合いを付けようと努力するのだった。
一方、ツカサはどうしても折り合いがつかない。
つけなければならないことに、納得がいかない。
もしかしたら、ふとしたきっかけで昔の記憶が戻るのではないか。
そうであるならば、アイラも……その思いは彼の頭にこびりついて離れない。
誰に尋ねても返ってくる答えは同じだ。
「ギフティアのOS書き換えは人間の記憶喪失とは違う」
たとえるなら、新しいHDDを買ってきてOSを新規インストールするようなものなのだろう。古いHDDの消したはずの情報ならば専門家の手によりある程度の復旧が可能なのはよく知られていることだ。
だが、新しいHDD……最初から無いものは、復旧のさせようがない。
そういう、こと。
アイラは、自分が近々“消える”ことでツカサを苦しませることが悲しい。それならば、今すぐパートナーを解消して関係を消し去った方がいい。
それが彼女の優しさであり、愛情なのだ。
ツカサは言う。
「苦しくて胸が張り裂けそうだ」
嘘など言わない。意味が無いから。
本当に彼女が好きだから、苦しいと告白した。
そう。
ついに、言った。
アイラの返事はもちろん……
「ムリです!!」
あれ?