いよいよ決行当日という段になって、とつぜん告白の中止を言い出した千尋に、桂馬の理解はまったく及ばない。なぜここまで“軽薄でいいかげん”なのか。いままでの自分の苦労をどうしてくれるのか。それらがないまぜになった怒りから、彼は思わず叫び『なぜもっと真剣になれないのか』と詰問してしまう。
それに対する千尋の答えは、桂馬にとってまったくの意外なものだった。ただのその他大勢の有象無象としか見ていなかった彼女。だが、彼女もまた、ヒロインと呼べる女の子と同様に悩みもがいていたのだ。


や〜……会話もモノローグもなし。登校途中の道草やその風景に紛れた自然な表情や仕草の変化のみで、こうまでさまざまにヒロインの心情を想像させてくれるアニメが他にあるでしょうか。まあ探せばあるかもしれないけど、わたしは他にこんなの知らないです。再三再四言ってる神のみの時間の贅沢な使い方ね。一歩間違えばただ退屈なだけの時間のムダになっちゃいそうな難しい演出なのに、おおよそまったくハズレ無し、だもん。すごいよね。



特に今回はどこにでもいるような普通な子の誰よりも深そうな悩みを、ムリに笑うでも無しことさら真剣ぶるでもなし、無表情に近いまま微かなたたずまいのうつろいで感じ取ることができる出色のデキだったと思うです。



ギャルゲー好きだからそうなのか、逆にそうだからギャルゲー好きなのかはさておき、桂馬ってがんばってる子が大好きなんですよね。一所懸命な相手なら、ぶつぶつ面倒だと文句を言いながらも決して見捨てたりせずに最後までつきあい助けようとする。これ決してやらないと命が危ないのが理由だけじゃ無いし、ましてや女の子とキスがしたい的な下心でもありえない。根は熱い子なんでしょうね。


そんな彼ですから、千尋も実は誰よりも輝きたいと思う熱い心を胸に秘めていると気づけば、放っておくことなんかできません。『駆け魂はボクが出す!』男らしい宣言とともに千尋を追いかけるのも当然の成り行きですな。


自分に言い訳するために真剣にやらないことって、あると思うんです。
あのとき真剣にやっていれば……』これって、後悔の元と同時に保険なんですよね。だってほら、つまり裏を返せば“真剣にやればうまくいった”って言ってるわけでしょ? 自分の能力や才能が足りなかったから失敗したわけじゃなくて、努力を怠ったから失敗しただけ、って逃げ道になるんですよ。平たく言えば自分はやればできる子だ、ってね。


言ってて耳と胃が痛くなってきたな……天につばするとはこのことか。
はいはい、わたしもそういうこといっぱいやってきたし、いまもあんまかわってないんだろうなと思います。はい。



とまれ、千尋はそんな自分から一歩前に出ることに成功したわけです。桂馬のキスとボクがいつでも千尋を守ってやるって王子様セリフで埋められた心の隙間は、彼女をホントの意味で明るい前向きな性格に押し上げることを手助けするのでしょう。



このね。前日の登校時との表情のちがいとかさ、いいじゃないの。うん。


いま再び『なぜもっと真剣になれないのか』と問われたら、もう『あたしみたいな凡人ががんばったって仕方ないじゃん!』とはきっと答えないはず。
ううん『これからは真剣に生きる』と胸を張って大声で言えると思う。



そして、桂馬も。
彼女から学び、彼女に助けられたことは多かったみたいです。
『リアル』なんてくそゲーでみんな四苦八苦してるのに、ボクは逃げてるだけなんじゃないか。
ちょっと考えるきっかけになっただけでも、大きな成長だと思うのです。


うわ、長。
ま、こんなとこでしょうかね。うん、おもしろかったっす。
来週も楽しみにしてますです。