思い返してみると、俺妹全話に共通した特徴って、ナチュラルな大仰さだったよねと思うんです。
言い換えると、あり得る範囲でのあり得なさって言うのかな。
こういうのは、下手すると考証も何もない荒唐無稽なSFよりよっぽどねえよとツッコミの山を築きかねない危うい描き方だと思うんです。事実わたしもそうしたことが何度かありましたし、この最終回でもそうでした。


ただ、それを感じるのって、一度見終わった後に振り返って考えてみたり、または二度目以降の比較的冷静になっている状態から改めて見ていこうと思ったようなときなんですね。
一回目はそんなこと思わないの。勢いがいいし、セリフの一つ一つがぎゅんぎゅんクるものだから ── 主に後にひっかかるのはこういう部分ですけどそれはさておき ── 桐乃や黒猫のストレートな思いが、テレビの前のわたしを大きく揺さぶってきて、ただ純粋な感情の波に囚われる快感に流されるのみなのですよ。


ときには彼女たちに一体化してそのまっすぐで一所懸命なひたむきさに心を躍らせたり、またあるときには京介と一つになって少女たちのやり場のない怒りを甘んじて受け止める懐の深をいい気分に浸ってみたりと、とっても感情移入が素直に行えて、怒ったり笑ったりを面倒なこと考えずに楽しめた良作だったと思います。



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さて、そんなわけで最終回です。
今回は黒猫のいい方向への変化や、完璧少女桐乃の初めての挫折が描かれていました。



黒猫のようにプライドの高い子は他人の好意をすべて同情や哀れみと受け取りがちで、それが自ら壁を作る要因になります。そしてこの壁を突き崩すのは容易じゃありません。本人はどんな状態に陥っても誰かに助けを求めようとはしないし、周囲の人としたってそんな取っつきにくく面倒な相手のために労力を裂こうと思ったりしません。結果、いつまでも孤独は続き壁はますます厚く高くなっていくものです。


でも、もしこれが、周囲に『取っつきにくく面倒な相手のために労力を裂こうと思ったり』するお人好しがいたらどうでしょう。


幸いなことに黒猫の目の前には京介がいました。
どんなに疎まれても怒鳴られても引かず媚びず顧みず! その気持ちはいつか彼女に届き、難攻不落の中二砦は次々と侵略されていきます。いつしか彼女は誰かに頼ることを知り、共に泣き笑い怒ることを知り……彼のお節介に対して、素直な感謝を口にすることができるまでになりました。



人と人が関わり合って成長する場合って、影響はぜったいに一方通行にはなりませんよね。京介が黒猫の成長を促したのだとすれば、黒猫の成長は京介の迷いを断ち切らせるきっかけにもなるはずです。


かくして、彼女に背中を押されて、京介はアメリカへ、最愛の妹の元へと旅立つのでした。



世界的に有名な陸上のコーチに招待されて、鳴り物入りでアメリカに渡ったはずの桐乃は、ただの一度もライバルに勝てていませんでした。いままで何をやっても誰よりうまくこなせていた彼女が最初にぶちあたった絶望は、最悪レベルに大きなものだったのです。
このまま帰るなんてみっともないことはぜったいにできない。そんな焦りはさらなる悪循環を生み、ついには練習への参加を止められるまでになっていました。


意気揚々と世界に挑戦してみたたけれど、結局、通用することなく日本に戻ってきた、なんて例は枚挙に暇がありません。野球でもサッカーでも格闘技でもモータースポーツでも、わたしは明るくないので具体例は思いつかないけれど、桐乃のような陸上でも当然例外ではないんでしょう。


わたしにはねぇ、そんな大それた才能はないですからね、そんな選手たちの自信やそれが失われたときの気持ちは正しくわからないかもしれないです。それでも、外野として考えた場合、気まずいですよね。
友人にそんな立場の人がいて、日本に帰ってきたとしたら、なんて声をかけたらいいんでしょう。


気を遣ってその話題に触れないようにする?
……いやいや、かえってそれまずいっしょ。


気にすんなと励ます?
……いやいやいや、それ逆鱗に触れる気がするよ。


あえてネタにして茶化してみる?
……いやいやいやいや、その場では笑ってみせるかもしれないけど、傷つけるよね。


どーすんだよ!


その一つの答えが京介であり、黒猫の言葉だったのかもしれない。





戻ってこい! 俺はお前に近くにいて欲しい! お前のことを悪く言うやつがいたら俺がぶっ飛ばしてやるから!





お帰りなさい




そんなので、いいのかもしれないですね。



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ときどきやりすぎだと思う点もありました。
制作側の主義主張をキャラの口から直接吐かせるようなことすんなよと思ったこともありました。
なんでそれで解決するんだと訝しんだことなど一度や二度ではありません。


それでも、わたし、俺妹が好きでした。楽しませていただきました。
今回で終わりは寂しいけど、いつまでもだらだら続けずに切るところで切るのは正解だと思います。


そうね、切ろう。長々とどーでもいいこと語りすぎたわ。
さてさて、晩ご飯にしよーっと。では、また!