全国大会二日目 ── 今日の個人戦は地方予選が無く誰でも出場することが可能なために400人以上が集い激戦が予想されるが、前日の失態から心身共に完全復帰したちはやは、軽くストレッチをこなしながら頼りがいのあるリラックスした表情を見せている。
D級でお互いが対戦者になるかもしれない机くんとかなちゃんは自信たっぷりにライバル宣言をし、肉まんくんもB級の優勝を目指して気合いは充分。なのに、太一一人だけが浮かない顔をしているのはなぜだろうか。
たしかに、個人戦には高校生であれば誰でも出場することができます。だけど、その中で行われる試合はあくまでも階級制なんですね。B級選手の太一には、どれだけ願ってもA級選手の新と対戦することはできません。もちろん、この大会の出場者の中に新はいませんけれど、そういうことじゃないんです。未だ彼と同じ土俵にも上がれていないことに激しい焦りと劣等感を抱かずにはいられない。一番のライバルと思いたい相手にとって、自分はライバルと見てもらえる段階に無い、と、それがつらいんですね。
さて。
今回は悪趣味なTシャツで最年少クイーンとして全国的に有名な若宮詩暢の登場です*1。
小学四年生ですでにA級に昇格していた段違いの実力者である彼女の試合をぜひとも見てみたい。一回戦の対戦を早く終えてしまおうと考える千早は、ほどなく己の増長に気がつくことになります。
目の前にいる相手はなにものだ? A級の選手だよ。
なにが『早く試合を終えて』だ。
対戦相手の手強さに気づいて自分の思いの失礼さを反省し、改めて本腰を入れようとしたその矢先、クイーンは試合を終えました。北央高校の甘糟くんに、なんと24枚差、つまり一枚しか取られることなく勝利してしまったのでした。
これが同じA級同士の試合でしょうか。
まるでLv5同士とは言っても勝負にならないほどの差のあった一方さんとビリビリさんのようではないですか(謎
ただならない空気の中でなんとか一回戦を勝ち抜いた千早は、二回戦の組み合わせ抽選で願います。
クイーンと当たりたくない。
その相反する祈り。でもどちらもウソではないのです。
戦ってみたいけれど、勝てるわけがない。勝てないかもしれないけど、戦いたい。
果たして、天は千早に慈悲を与えたのか、試練を与えたのか。
千早の二回戦目の対戦相手は、若宮詩暢でした。
速い。
『後の先』というわけでもないでしょうに、千早より後に動き出しているのに札を掴んでいるのは必ずクイーンです。
『感じ』は千早が上。『動き』はクイーンが上。そういうことでしょうか。
いや……千早より速く動ける自信があるから、千早より長く音の変化を確認しているだけなのかも?
それならば『感じ』でさえも千早を凌駕するのか?
問題はそれだけではありません。
『正確さ』も明らかにクイーンが勝っている。千早が二枚まとめて払おうとした札を一枚だけ正確に払って奪っている。
どこまで化け物だこの女! そんな絶望感に囚われそうになった矢先。
「スノー丸!?」
それは、お互いが着ているキャラクター物のTシャツ。
なんだ、クイーンといっても自分と同い年の16才の少女じゃないか。
ようやく気持ちを立て直そうとする千早に、さらなる非情な現実が追い打ちをかけるのです。
囲い手の隙間を抜いて札を取られた?? 速さと正確さと、さらに巧妙なテクニックまで?
こんな相手にどうやって勝てと?
ここまでの劣勢に立たされたことはいままでなかったよ。一枚も取れないなんて、そこまで『違う』相手と戦った事なんて……あ、そうか、新!?
そうだ、新は手加減をしなかった。一度だってしてくれたことはなかった。
だけど取ったぞ。せめて一枚は! そう思って取ったんだ。
子供の頃に自分にできたことがどうしていまの自分にできないわけがあるか!!
千早は追いつきます。この試合で一度も触れることのなかった当たり札にはじめて触れることができた。クイーンとほぼ同時で似触れて敵陣だから思わず譲ってしまったけど、それでいいんだ。『口でも引くな』の原田先生の教えからは外れるけれど、それでいいんだ。
最初の一枚目がまぐれ当たりに見えるものじゃダメなんだ。
だって、ここはクイーン戦が行われる近江勧学館だもの。いつか自信を持ってクイーン戦を戦うために。
同じく原田先生の教えに『守りに自信のある選手から敵の自陣深くを抜けば大ショックを与えることができる』ともある。そして流れを自分に向けろ、と。
今度こそ文句なしに鮮やかにクイーンの利き手側の一字決まりを抜いてやった。
そんなことはいままでなかったみたいだよ。ざまあみろ。
自陣の『ちはやぶる』をあえて敵陣に送る。
送り一発。それも取ってやった。どうだみたかわたしの力。
ついにクイーンの顔から笑みを消してやったぞ!
△▼△
すごいねー。
こんだけの実力差を気合いで『思い』で覆しちゃったよ。や、覆したって言っても試合に勝ったわけじゃないけれど、少なくとも千早は詩暢を同等に見ているよ。ってこれまた語弊があるか。もちろん自分より上の選手だとは思っているけれど、あくまでもライバルだと考えている。天の上の存在だなんて思っていない。
その心の膂力がおそろしい。くじけない人はぜったいになにかやらかしてくれる。気合いや根性だけじゃなにもできないとしたり顔で人は言うけれど、根性もない口先だけの人間に根性でがんばる人間を見下す資格などあるものか。
んー。太一の劣等感とこのへん対照的に描かれてますよね。まだ彼はやる前から負けを認めてしまうクセが抜けてない。それがきっといつか千早の影響でいい方向へ向かっていくと期待したいよね。
そんな感じで、また来週。
粒ぞろいの今期の新作の中に混じっている数少ない前期からの継続作だけど、新鮮さだっていささかも負けてないよね。
やっぱ、いいよ、千早。
*1:前回にちらっと姿だけは見られましたけど