篤に体を乗っ取られてしまった亮介は、目を覚ますとどこともしれない幻想的な光景の中にいた。
色鉛筆で描かれたような暖かで柔らかな色合いに包まれた不思議な世界で、親指姫のように小さく愛らしい六花と出会った亮介は、彼女の『王子様捜し』の願いを聞き入れて、二人で探検を始めるのだった。


亮介の体を乗っ取った篤は、久しぶりの生きた肉体の感覚に喜びと同時に戸惑いも覚えていた。愛する女とともに過ごすことのできる何物にも代えがたい喜びと、長く味わっていなかった耐えがたい肉体的な苦痛。コンタクトレンズにゴミが紛れるとこんなに痛いのか。亮介は裸眼だと外歩きが怖いほどの近眼だったのか。


それぞれが新鮮な経験に興奮を隠せていない中、六花はといえば……あまりに様子のおかしい“亮介”にどん引きしていた。



肉体を離れて意識のみの存在となった亮介が流れ着いたその世界は、どうやら生前の篤が描いた絵本の世界であるようです。
そうであるならば、そこに現れた六花の正体は、篤が作り出した理想の六花の姿なのでしょう。
けなげに、いつまでも、飽きることなく、この世界を作り上げた“王子様”を探しつづける“お姫様”の存在は、篤が死に際してまで書き続けていたお話の中に投影した、せつなくはげしい思い。あるいは、妄執とも呼ぶべき強烈な焼き付けによる産物なのかもしれません。


今回、亮介の体を乗っ取って亮介として生活していく中で、篤はいままで知らなかった、知りたくなかった亮介の一面をまざまざと見せつけられました。
貧乏でこれと言った才能も無い若いだけが取り柄の青年。ずっとそう思っていた彼が、確かにそれは事実その通りであるのだけれど、同時にそれだけではなかったのだと。


無断で亮介のお金を使ってメガネを作ったのも、床屋さんに行かずに自分で頭髪を切って酷いヘアスタイルにしてしまったのも、すべてが八つ当たりだと、篤ははっきり自覚していました。再び肉を得たことで、自分と亮介の立場の違いを、痛いまでに思い知らされてしまったせいなのでしょうか。特に髪に関しては……たぶん放射線治療のせいでしょう、亡くなる直前の篤はすっかり頭髪を無くしていたようなので、深く思うところがあったのでは無いかと。



そう、ね。
わたしが今週のお話で一番おもしろいなって思ったのは、篤の使っていた食器を“亮介”が使っているのを見て、うれしくかなしい、と思う感覚ね。亡夫が帰ってきて目の前でご飯を食べているような懐かしい錯覚と、病に倒れてご飯も食べられなくなっていたのを思い出して胸が締め付けられるようになる思いと、相反する二つの感情のせめぎ合いがいいなって思った。


あ、そういえば、こういうのって男性向け作品だとあんまり無いんじゃないかな、とも思ったんだよね。
そちらのパターンだと、決して亡夫の形見を他の男には使わせようとしない未亡人とか、方向性としてはそちらだと思うんです。


ん……だけど自分で数分考えてみてもそうなんだけど、あんまり女はモノには執着しないんだよね。
うん、こんな経験もちろんぜんぜん無いんだけど、わたしが彼女の立場だったとしても、大して抵抗もなく同じコトしたかもしれないって思う。


そんなわけで、えーっと、このあと六花さんが亮介くんの背中を流すそうです。


それ、なんてエロゲ?