なすすべもなく過ぎていく時間に、理樹は焦りを感じずにはいられない。西園美魚を取り戻すんだ、その意気込みだけが空回りして、彼女の記憶すら曖昧になっていく自分に怒りさえ覚える。メガネの似合う、物静かで心優しい少女を取り戻すんだ。……メガネ? 彼女はそんなものかけていなかったじゃないか。美鳥の誘導にいともあっさりと引っかかりそんなことすら曖昧になっていることに改めて恐怖を感じる理樹だった。
この世界は美魚を忘れようとしているのか。自分はそんな中に飲み込まれようとしているのか。
いやまて、あるじゃないか。そうだ、あるぞ、思い出した。


西園美魚がこの世界に確かに存在した証を。


そういえば、原作ゲームをやっているときにも思ってたんですよ。
女の子がこれだけいるのに、メガネっ子が一人もいない
って、あれ? クラナドも、AIRも、KANONも、メガネのヒロインはいなかった……よね。最近のリライトにもいなかった。あの会社はメガネが好きじゃないのかな。いや別に、わたしもメガネフェチじゃないですし、いなければいないでそれはいいんですけれど、これだけわかりやすくキャラのかき分けに使えるアイテムがまるで使用されていないのはちょっと驚きだなぁ、などと今更ながらに思う吉宗であった。


さておき。


イマジナリー・フレンド。あるいはイマジナリー・コンパニオン。
うちの日記では二度目に使う用語でしょうかね。前回は『俺たちに翼はない』で使用したはず。


つまりは空想の友人、あるいは脳内嫁みたいなものです。
それが現実世界に現れてしまった存在が、美鳥という少女でした。


幼い頃からずっといっしょだったのに、美魚は美鳥を忘れてしまった。
それが自分の意思に反した“治療”の結果だったとしても、美魚の心には深く大きな罪悪感が刻まれてしまったのです。その傷は癒えるどころか月日がたつに従って広がり続けました。そして、いま、贖罪のために、美魚は美鳥という名の“妹”へ、自分が立っていた場所を静かに譲り渡し、いずこかへ去って行ってしまったのです。


つまり。


世界が美魚を見捨てたのではありません。
美魚が世界から逃げ出したのです。


孤独になるために。
孤独になって、空の青にも海の青にも染まらない、白鳥でいるために。
西園美魚でいるために、西園美魚を捨てた。


あるいは、美鳥はただのきっかけであり言い訳でしかないのかもしれません。
すべては自分のため、なのかもしれません。


いずれにせよ、そんな美魚を理樹は認めません。
なぜなら、彼は知っているから。
孤独になって侵されないことが、自分が自分でいるために必要なことではない。
それを知っているから。


世界から消えてしまいたいと思った記憶は理樹にもあります。だけど、彼のそんな“勝手”を許さずにお節介を焼いてきた恭介がいます。彼とともに自分に手を伸ばしてくれたかけがえのないリトルバスターズがいます。



だから、今度は、僕が君に手をのばす。
西園さん、君は間違っている



みんなの中にいて、誰かとふれあうことこそが、君が君でいるための唯一の方法だ。


西園美鳥は、美魚を恨んでなんかいませんでした。理樹の敵でもありませんでした。
ただ、明るくてさびしがりやの、姉想いの優しい妹でした。
美魚がこの世界に戻ってこれたのは、彼女の居場所を理樹に伝えた美鳥のおかげ。


いま、美魚と美鳥は、一つになりました。
美魚の半身から生まれたかけがえのない妹は、姉の中に戻ったのです。もう、美魚が美鳥を忘れることは無いでしょう。美鳥がさみしがって表に出てくることもないでしょう。




△▼△


はい、いい最終回でした。
や、まあ、美魚ルートのEDと考えれば、これはこれで一つの最終回ですしね。


さてこれは、どうするんだろうなぁ。
解釈によってはすべてが……いや、やめよう。いずれ訪れるグランドフィナーレを静かに期待していましょう。


今はただ、影を取り戻して前よりちょっと明るくなった、美魚の笑顔に癒やされようじゃないですか。


そんな感じで。
次回はインターバル回みたいですね。まじめなお話が続きましたからね。