いついかなる時でも菜々生のことをつい考えてしまうのは、きっと神使の契約のせいだ。
巴衛はそう考えていた。
そう、思い込もうとしていた。
気持ちはわかります。
自分が変わっていくことを冷静に観察してみると、これ案外とこわいですよ。
ことに恋愛絡みのように、一瞬で価値観の反転すら発生しがちな上に自分では制御不能な事象に関しては殊更でしょう。白いものでも黒く見えてしまうのは、なにも杯を交わした親分との間だけの話ではないのです。
ああ、そういえば好き合った男女の間でも、いずれ杯を交わすようになることもありますね。ふむ、そういう共通点があったか、と思わず膝を打つわたし。
で。
これ、もう菜々生の思いの成就ですよ。ビクトリーですよ。
鼻高々で思うままに手のひらで巴衛を転がして、恋の栄華を極めることすら容易なはず。
あああああああ。
違う、違うでしょう菜々生ちゃん!
泣かすのはあんたの立場の筈でしょ!!
あかんわ。
惚れたら負け。惚れさせたら勝ち。と、するならば。
勝者は己の勝利を理解できずに敗者に甘んじる一方で、敗者は己の敗北を半ば認めつつもおくびにも出さずに関係のコントローラを握り続けようと必死にあがいている……。
これは端から見るとめっさいらつく。
あるいは、めちゃくちゃ楽しい!!
そういうものですよ。ふたりともとっても可愛いもの。
△▼△
あやかしの身で人間を好きになったことのある巴衛は、触れれば壊れてしまいそうな儚い人の弱さを、どんな神よりも妖怪よりも恐れているのです。
また“そんなこと”が起きたら自分は耐えられるのか?
ミカゲに“そんなこと”の記憶を封じられているいまも、その出所が不明となった恐怖心だけはぬぐうこともできずに心の奥に留めている巴衛。
一度、神使の鎖から解き放たれたことで、自分の思いが自分だけのものだったことをはっきりと知った。そして、自分で思っていたよりも、もっとずっと深く真剣に菜々生を思っていることを自覚して受け入れたはずなのに。
菜々生に「好きだ」の一言も言ってあげられない。
関係を強くすることを恐れて、一歩踏み出すことをためらってしまう彼の傷が癒やされるように……これこそが、ミカゲの願い。
人間の少女たる菜々生を神として迎え入れた理由は、巴衛が再び伴侶として人間を受け入れることができるように。
意地悪な言い方をすれば、菜々生は巴衛のリハビリのための道具に使われたわけでしょう。
だけど、あんまりそんなの関係ないよね。
単なる出会いのきっかけだもんね。
女友達に男の子を紹介されたのとなーんもかわらんもんね。
まあ、そんなもんですよ。
問題ない問題ない。
そんな、少女マンガなお話でした。
なんかこー、やきもきというか、もどかしさにストレスを感じない部分も無きにしもあらずだけど、それなりにおもしろい展開だと思いますよ、っと。
では、また。

