芝居じみた別れの儀式。
友人たちの言葉から繋がる、優しい思いの魔法の糸。
いま、灰色の牢獄から解き放たれた瞳美はひとり、60年後の未来へと帰っていった。
極めてあっさりとした離別。
それは当たりまえのことかもしれない。
だって、ここは瞳美が生きる世界じゃないんだから。
彼女が自分に自信を取り戻すためにほんのわずかだけ寄り道をした、ただそれだけ。
たまたま立ち寄った旅先での、些細な出会い。
さあ、あらためて17才の“今”をはじめよう。
2078年に暮らす普通の少女として。
海が青くてよかった。空が青くてよかった。
それは、瞳美が唯翔からもらった色。
少年は少女の思い出の中にこれからも生き続けるのだろう。
その思いを心に抱いたまま、少女は成長し、新しい恋をしていくんだと思う。
△▼△
……そんなお話だったと感じました。
正直ね、ラストは60年後に帰った瞳美を、すっかりおじいちゃんおばあちゃんになったみんなが出迎える展開なんだろうとか思っていたんです。
もしかしたら1人2人は欠けてるかもしれない。だけど、それでも再会があるに違いないと想像していました。
そんなベタな感動シーンは全くなし。
誰のモノともわからないお墓参り*1を終えて、どこかで見たような面影*2の級友たちに溶け込んでいこうとする瞳美は、まちがいなく今を生きている。
考えてみれば、これが“今”なのは瞳美だけなんですよ。
他のみんなにとってみれば、これって60年も前の(印象的ではあっても)一つの出来事でしかないんですよね。
進学・就職・結婚・出産……孫ができたりして、場合によってはひ孫までいるかもしれない。
大病や大けがで今も苦しんでいるかもしれない、もうこの世にいないのかもしれない。
60年の隔たりって、それくらいですよね。
4話目の感想で「アニメっぽい感情表現がひかえめにしてあるというか、リアル向けに振ってある部分が多い」って書いたんですけど、最後まで徹底しているんだな、と。
全ては時間が押し流し、過去は思い出というアルバムの中にしまいこまれていく。
これは誰にとっても同じで、決して抗うことはできないと思うんです。
人は強く思った自分の気持ちでさえも、いつか忘れてしまう生き物だから。
だからといって、それは消えてしまうわけじゃないんですよね。
思いは伝わって残っていくんです。見えなくなるだけで、消えるんじゃない。
小さい頃から瞳美が大好きだった絵本は、瞳美の目にただ一つ見えていた色は、唯翔から瞳美への何十年越しの贈り物だった。
唯翔が絵を描き続けることができたのは、瞳美のおかげだから。瞳美に自分の絵が好きだと言ってもらえたから。
それだけで、いいんだと思う。
スタッフの皆さん、お疲れ様でした。
卵が先か、鶏が先か、的な、琥珀が瞳美をタイムスリップさせた理由のスタート地点が最後まで不明だったところとか、SF的には疑問が残る部分もありましたが、実のところあんまり気にはなりませんでしたね。そのくらいにステキなお話だったと思うから、かな。
これからも、いい作品を作り続けて下さいませ。